90日のシンデレラ
 (あ~、きれい)
 (プラネタリウムって、こんな感じなのかも)

 ヒルズエリアを抜けてしまえば、もう光のパレードはおしまいだと思っていた。ビルのオベリスクが消えてしまっても、それ以外にもたくさんの灯りが都会には満ちている。光の丘が終われば残るのは田舎でも見かけることのできる、よくある夜景になると思っていた。

 そのときにはシートを戻そう、そう真紘は考えていた。だが、世界は違った。
 大きな光の粒が消えてあとに、小さな粒が瞬いているではないか!
 それは、星。はるか大昔から夜空に輝く、星。
 ビルのライトが豪華に着飾った主役であれば、天然の夜の灯りはうしろでひっそりと控えている脇役かのよう。

 (東京でも星が、みえるんだ)
 (でも、あれが星とは限らない?)
 (あ、あーっ! やっぱり消えちゃった?)

 ビル影で、かつ地上からの照明が遮られるごく限られたところでしか、その星は現れない。小さく弱弱しく、現れては消える光を、真紘はそれを自然の星だと思った。けど実はそうではなく、あれらはやはりどこかのライトかもしれない。

 クーペは走る、ぐるぐると。
 助手席に座っているだけの、東京の地理に不案内な真紘には、いまどこを走っているのかわからない。

 思いがけず強制参加となった東京ミッドナイト・ドライブにて、自分は一番きれいな夜景のエリアを走り抜けたんだと、真紘は思う。
 運がよければ星がみえる暗いエリアが東京にもあるんだとも、ぼんやり思っていたときだった。
 再びの、光の洪水に包まれた。ヒルズエリアに戻ってきたのだ。

 「!」

 思わず、がばりと身を起こす。運悪くちょうどクーペが加速した。起こした身体が、どんとシートに押し付けられる。

 「う、わっ!」
 「あ、ごめん」
 「い、いえ」

 首をひねり、真紘は窓外を確認した。
 高速走行中に真紘がなりふり構わず身を起こしたのは、一度みたものがまたみえたから。

 (あれは?)
 (もしかして……)

 そう、遠くにあのブルーツリーが小さく姿を現していた。
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