90日のシンデレラ
 本社主催の新人研修を、系列会社が多すぎるせいで数年に分けて行っている、そんなこと、真紘ははじめてきいた。
 こんな間引き開催の新人研修なんて、現実にあるものなのだろうか?
 真紘の困惑など、なんのその、主任はつらつらと先を続けた。

「で、そういうわけで、椎名さん、三ヶ月よろしくね」
「え! そういうわけって、しゅ、主任、私が受けるんですか?」
「だって、うちの部で一番身軽なのは椎名さんだけだから」
 
 あらためて退勤時間過ぎの職場を見渡せば、既婚女性は足早に去っていた。真紘以外に残っている女性(・・)はいない。
 女性同僚は皆、家庭を抱えている。特に残業代がいいわけでもないこの社に、家庭を犠牲にしてまで働こうという女性はいない。

「でも主任、確かにこの部で独身は私だけです。身軽といえば身軽ですけど……新人って年齢じゃないですよ」
「あ、それね、新人とついているけれど正確には、はじめて企画担当になる人っていう意味の新人だから」
 さらに不可解なことを、主任は口にした。

(企画担当?)
(それって、企画部関係者が受ける研修ってこと?)

「あの、主任。その本社研修って、私には受ける資格というか素質というか、そんなものはないです。だから担当違いと思うんですけど……」
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