90日のシンデレラ
 真紘の所属部は製造管理部である。事務でも総務でもなく、どちらかというと工場勤務に近い。
 さらに処遇は"新人"のままであるとしても、企画部所属でない真紘では、大いに"新人"の意味が違いすぎる。この研修に自分がお呼びでないのは、容易にわかる。

「でも、ここにいる社員で、三ヶ月の本社研修に出れるのは、椎名さんしかいないんだ」
と、困ったように主任がいう。
 もう一度いう、この部署で独身女性は真紘だけ。五年の勤続年数を重ねても”新入社員”のままであれば、真紘は唯一の”独身女性”なのだ。
 さらに、現在の真紘の担当は重責を伴うものでない。それは誰でも交代可能な仕事に就いているということで……

(身軽というのは独身というだけでなく仕事も大したことがないから、外しても問題がないってことね)
 軽く侮辱された感じもするが、真実だからそれについては黙っておく。

「企画って、製品開発関係ですよね? 本来は主任クラスが受講すべき研修じゃないのですか?」
「職位と職種からいえばそうだけど、いま僕が三ヶ月抜けたら、もうこの部署、どうなると思う?」
 なぞなぞ形式にして、主任は真紘に問いかけた。

「…………」

 事実、主任の仕事量は他の部署の同職位と比べて、半端なく多い。彼が要領よくこなすがゆえに仕事が回ってきて、気がつけば……という状態だ。
 悲しいかな、地方の中小企業の人材不足がありありとわかる主任のセリフであった。

「それに、うちの子供、まだ二歳だから、いろいろ、ね」
 仕事だけでなく、主任は双子ちゃんを抱えて、育児も忙しい。予定外の双子の娘の父親となった主任のプライベートは、独身者でも気の毒に思われた。

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