90日のシンデレラ
 本音を告白してしまえば、なんともみっともない真紘の姿がある。
 田舎者は、どう頑張っても田舎者でしかない。今晩のような素敵なドライブに連れていってもらっても、そのお礼に気の利いたものを返すことはできない。婚前同棲のようなことも平然と受け入れるなんて、もっての外である。

 「他には?」
 「…………」

 他には何があっただろうか?
 今まで抱えていた中で一番大きくくすぶっていたものを吐き出せば、ひとまず真紘は満足できた。満足はできても、まだまだ苦情を申し立てる相手の前にいれば、緊張は解けていない。イケてない女子社員をさらけ出した羞恥もある。
 ゆえに、それ以外のことがすぐに思いつかない。今までの不満や不安は、これだけではないはずなのにだ。
 次の言葉が出てこなければ、必然的に無言となることになる。さんざん悩み、ひどく疲弊し、すっかり困り顔になった真紘が、北峰の前に立つのみで……

 「うーん、そうか。そこは、不躾だったかな~」

 真紘の訴えを柔らかく北峰は受け止めて、目を逸らす。少し天井を仰いで何やら思案する。
 帰り道とはまた違う沈黙が、ふたりの間に立ち込めた。
 しばらくしてから、それは破られる。破ったのは、北峰のほうだった。

 「ねぇ、シーナちゃん、シーナちゃんは、さっき、俺のカノジョのじゃないからキスできないって、いったよね」
 「…………」

 そう、それは確かにそう。車内ではっきり真紘はそういって、キスを拒絶した。

 「じゃあさぁ、それって、シーナちゃんが俺のカノジョになれば、オッケイってことだよね」
 「!」

 言葉の上では、その理論は正しい。しかし、それはあくまでも言葉の上でのみの問題だが。
 ここでも真紘は困惑する。

 (何いってるの、この人?)

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