90日のシンデレラ
(奥様にすれば、三カ月といえども、ひとりで双子の面倒をみるなんて地獄だろうな~)

 真紘は独身だが、先に結婚と出産を済ませた友人がいる。
 そういえば、出産祝いを持っていったきりその彼女とは会っていない。ここも主任のところと同じなのだろう。育児がいかに大変であるのか、そんなの職場のママさん同僚をみれば容易にわかる。
 母親の一番の関心ごとが育児であれば、母と母でない女性の付き合いはどうしても希薄なものとなる。彼女が薄情なわけではなくて、環境がそうさせるのだ。主任だって、それに違いない。

「そういわれましても……確かに、スケジュール的に私がちょうどいいかもしれませんが、本社研修なんて、こなせる自信がありません」

(だって、企画関係の研修でしょ?)
(本社では大したことないかもしれないけど、うちみたいな小さなところだと、その内容は経営指針作成研修だよ)
(私みたいな平社員じゃなくて、もっと上の、幹部候補生クラスがいくべきものじゃなの?)

 そんな真紘の心の声がきこえたのだろうか、いけしゃあしゃと主任は(のたま)った。

「椎名さん、先々月に出した報告書のこと、おぼえている?」
「報告書、ですか?」
「うん、そう。本社に出した報告書」

 本社研修参加要請の話から、二カ月も前の報告書の話へと飛んだ。
 思考を無理やり切り替えて、真紘は思い出した。
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