90日のシンデレラ
 社員教育だって形だけと思っていた。大事な通達が無下にされたことが多ければ、完全には本社のことが信じられない真紘がいる。だからあの報告書が丁寧に本社まで届くことはないと、真紘は確信していた。
 それに、提出前にこの会社の上役の誰かが、一度は目を通すだろう。あんな苦情をそのまま送ることはないはずだとも思っていたのである。

「あれね、本社のほうでは衝撃的なレポートにみえたらしい」
「はい?」
 主任の言葉に、真紘は我に返る。そして耳を疑った。

(衝撃的な、レポート?)
(そ、そりゃそうよね)
(本社におべっかを使う子会社はあっても、あからさまな不満を口にする子会社社員はいないよ、普通は)

 もし自分が本社の担当部署のスタッフであれば、あんな報告書、読めばびっくりする。
 文面こそは報告書であるが、内容は「いった、いわなかった」という小学生の喧嘩レベルだから。

「…………」

(え、ちょっと待って!)

 あまりいい予感がしなくて、おそるおそる真紘は主任へ反問した。
「あのレポート、本当に本社へ提出したのですか?」
 形だけと思い込んでいた社員教育を、いま一度、真紘は確認した。

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