90日のシンデレラ
 「本社の担当者からは、いい機会だから地方子会社の意見を思う存分きかせてほしいといっている。経費はすべて本社持ち。研修の間の住居は、本社で用意した物件を使ってくれとのこと」
 「本社で用意した物件?」
 「そう、金銭補助でなく物件。三ヶ月だよ、東京で三ヶ月もホテル暮らししたら費用がかさむから、社宅を使ってくれって」
 研修打診の段階で、すでに滞在先も決まっていた。

 その本社で用意した物件なのだが、社宅ではなく社が契約しているマンスリーマンションであった。これは研修申し込みが終わって、改めてもらった研修案内通知で知る。
 よくよく読めば、そのマンスリーマンションは地方から上京して短期滞在する社員用に数室確保してあるものだった。
 通常の社宅契約のことを考えれば、研修のために数ヶ月単位で借りるなんてこと、細かすぎて煩わしいのだろう。マンスリーマンションなんて、そんな短期契約にまさにうってつけの物件だ。
 そこに真紘は放り込まれることになったのだが、ふと彼女は気がついた。

 (なんだかこれ、下宿生活みたいじゃない?)

 真紘は、大学は自宅から通っていた。就職先が地元であれば、実家から勤務している。ある意味、実家との縁が強いといえば聞こえがいいが、単に親が教育費を工面できなかった、就職先もひとり暮らし経験のない女学生を採用しなかったという結果である。
 そう真紘は、学校も自宅通学、就職も自宅勤務。家を出る機会が二回あったのだが、どちらもできなかった。
 二回失敗して今の社に就職したときに、もう自分は結婚するまで家を出られないと真紘は思っていた。
 そこに、この研修である。なんと、これが真紘のはじめてのひとり暮らしとなるのだ。 

 かくて、真紘は本社へ研修にいくこととなった。
 はじめてのひとり暮らしを東京ですることになった。三ヶ月限定だけど。そこまで子供ではないが、やはり東京という場所柄、真紘はドキドキする。
 それとは別に、研修にだって気が重いものがある。研修とついていても、本当はあんな報告書を出したってお𠮟りを本社からもらうのだから。
 複雑な気分のまま、真紘は三ヶ月の荷造りを行った。
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