90日のシンデレラ
 社屋受付カウンターに、本社総務部からの書面を呈示する。
 リクルートスーツとほぼ変わりない真紘の姿に、まず受付嬢たちは就職面談にきた求職者だと勘違いした。提示された書面をみて、彼女らの態度が柔らかくなる。部外者でなく身内なのだと、認められた。
 「遠いところから、移動お疲れ様です。担当部署を呼び出しますので、しばらくお待ちください」
 と、機内乗務員のような制服姿のきれいなおねいさんにいわれ、素直に真紘は従った。

 ここくるまでの間も、数年ぶりの東京に真紘はドキドキしていた。本社社屋に入ってもそのドキドキは収まらない。
 はじめて入る本社ビルのスケールの大きさに感動もすれば、地方の孫会社の自社がよくぞこんな立派な会社の系列に入れたものだと、しみじみ真紘は思う。そのくらいの場違い感がある。

 「椎名さんのところでは、もう田植えとかはじまっていますか?」
 呼び出しの間を埋めるように、受付嬢が真紘に話しかける。
 「あ、は、はい! 今年はゴールデンウイーク終了とともに、田植えがはじまりました」
 「それって、早いのですか? それとも遅いのかしら?」
 「少し早いかなって、ところです」
 なんてことを、あたふたと真紘は返す。
 真実は、真紘の地区は田んぼではなくて畑が優勢な地域だ。でも都会の人は「田舎といえば田んぼ!」と信じ込んでいそうだから、あえて訂正などしない。

 「椎名さん、お待たせしました。総務部の鎌田です」
 受付嬢と無難な世間話が終わる前に、お迎えがやってきた。制服でもなくスーツでもない、チャコールグレーのタイトスカートにアイボリーのブラウス姿の女性が、真紘の前に現れた。

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