90日のシンデレラ
 名を呼ばれて、真紘は少し緊張する。向こうからきれいな人が歩いてきているな~なんて思っていたら、その彼女が自分の担当であったのだ。

 鎌田の到着とともに、ふわりと受付カウンター周辺にいい香りが立ち込めたような気がした。彼女のフレグランスだろうか?
 遠目でみててもスタイルがいい人と思っていたのに、そばでみる鎌田女史はとてもスレンダーであった。その細さ、まるでモデルのよう。
 上品な焦げ茶色の髪を、鎌田はふんわりとひとつにまとめ上げていた。受付嬢と同じようなヘアスタイルなのに彼女らと違って鎌田には、エレガントさが全面に押し出されていた。
 ヘアスタイルのみならず、メイクだって甘すぎず、クールすぎず。近寄りがたい雰囲気はない。むしろアットホームで、わからないことがあれば、この人に相談したいと思わせる女性だ。
 そう、この鎌田女史、好感度も抜群であれば仕事のできるキャリア女子そのものであった。

 「お疲れ様です。鎌田さん、こちらが……社の椎名さんです。空港から直接、来社されたとのことです」
 さっき真紘が提出したばかりの書面を、受付嬢は鎌田に渡す。そのまま鎌田と受付嬢の間で、業務やりとりがはじまった。
 うっとりしながら鎌田女史らを見守り、真紘はこう思う。

 (総務部っていっても……本社は女性なんだ)
 (うちの社の総務なんて男しかいなくって、てっきり担当は男性だと思っていた)
 (こういうところが、都会っぽい?)
 
 男女の役割分担について、そんなものと思い込んでいるというか地方で植え付けられた先入観というか、この上ない予想外の感想を真紘は持つ。

 件の鎌田は受付嬢との会話が終われば、真紘に向き直った。
 「椎名さん、到着早々、申し訳ありませんが、研修ガイダンスを行います。早く荷物を解きたいと思うかもしれませんが、もう少し我慢してくださいね」
 鎌田女史はにっこりと優しい笑みを浮かべて、真紘を会議室へ案内したのだった。


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