90日のシンデレラ
 ††† 
 

 「……以上で、全体ガイダンスを終わります。十五分の休憩ののちに、個別グループガイダンスに入ります」
 鎌田に連れていかれた先は、中層階にある中会議室。中会議室といっても、真紘の社の会議室よりも断然広い。
 その会議室に、鎌田女史の涼やかなマイク音声が響く。真紘を迎えにきた本人は、このガイダンスの司会を務めるだけでなく企画部新人研修のメインスタッフでもあった。

 (うわぁ~、鎌田さん、カッコいいなぁ~)
 (できそうな雰囲気だったけど、ホントにできる人なんだ)
 (それに……)

 まわりを観察すれば、ガイダンスを受けているのは総勢三十人ほど。そして、その約七割が男性で年齢層はあの主任と変わらない。
 既婚男性が多い研修会場で、再度、真紘は思う。

 (やっぱり私でなく、主任がくるべきだったのでは?)

 そう思っても、もう遅い。

 会議室はどの参加者も社を代表してやってきた社員であれば、誰もが有能そうに見えた。グループ会社の中で横のつながりがあるのだろう、「ご無沙汰しています」という声をかけをして、雑談をはじめる社員がいる。
 もしここに自分でなく主任がいれば、彼らとは年齢も近ければ同じ男性ということで新しい交流がはじまったかもしれない。それが縁で、今後の社の営業に新しいパイプができたかもしれない。
 でもここにいるのは、田舎孫会社の若輩女性社員の真紘である。他社に知り合いもいなければ、受講者の中に二十代の社員の姿はまだ見つかっていなかった。

 (私、絶対に場違い!)

 誰ひとりとしてこの場に知り合いのいない真紘にすれば、もう心細い感しかない。休憩時間に入ることで余計なことを考える時間ができてしまい、ひとりブルーになる真紘がいる。
 さらに、真紘はこんなことにも気がついてしまった。

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