90日のシンデレラ
後半のガイダンスは、業務関係でなく厚生福祉関係のガイダンスであった。本社勤務でない社員のための、研修中の勤務について説明がはじまる。
総括的な『社の決まり』の確認が終われば、さらに個別のガイダンスへ移っていく。長距離移動を配慮してか真紘の個別ガイダンスは、今日はここまでであった。
鎌田女史の指示に従って、真紘はひとり先に隣の小会議室へ移動する。
いけば、真紘とそう変わらない年齢の女性社員がいた。会議テーブルにはありとあらゆる種類の鍵が、ずらりと並んでいる。すべて研修者のためのもの。ここで、各自の滞在先の鍵をもらい、本日は退社となるのだ。
鍵の受取人第一号の真紘は、たくさんのバラバラなカギをみて、参加者全員が同じところへ詰め込まれるのではないと知る。
「えーっと、椎名さんは、こちらですね」
と、女性社員はカードキーを差し出した。こちらが周辺の地図と利用規約ですと、鍵とは別にファイルももらう。
女性社員一緒にと中身を確認すれば、真紘の滞在先は事前に知らされていたのとは違う物件になっていた。
「ここ、社宅、なんですか?」
「正確には借り上げ社宅になります。ちょうど異動になったファミリーの部屋です」
(家族用!)
(ということは、広い物件?)
(三ヶ月の都内滞在を考えると、すごくいいかもしれない!)
自分の宿は単身赴任用のワンルームだときいていた。これは嬉しい誤算である。
ワンルームのコンロでは、せいぜい湯を沸かすことしかできないだろう。三ヶ月の間はコンビニ弁当やスーパーの総菜の日々だと覚悟していた。だが、家族用住居ならキッチンに不足はない。洗濯も同様で、きっと安心して干すことができる。