90日のシンデレラ
 切れ長の目、完全に開けばそこには意思の強い瞳が嵌まっている。
 きれいに筋の通った高い鼻、引き締まった口元、そこから続く顎のラインは力強く、女性とは違う男性ならではの優美さもある。

 いま真紘と共有するシーツの下には、アスリートのような筋肉質な肉体が隠れている。
 それを意識すれば、昨晩の記憶の断片が真紘の頭に浮かび上がった。

 力強い腕が真紘の背中を抱き、腰を自身へひきよせる。
 頬にキスを落とした唇が、首筋へ、鎖骨へ、胸元へ這っていく。

 その先を思い出せば、勝手に頬が赤くなり胸が早鐘を打つ。足奥だって、ずくんと疼く。
 そう隣で眠るカレシは、ギリシャ彫刻の男神ようなイケメンなのである。

 だが、一歩この部屋を出ると彼は豹変する。
 メチャクチャ仕事に厳しい鬼担当主任へ、メチャクチャ傍若無人な本社社員へと。

「あ、真紘……」

 恋人の名を呼んで、一度大きく目を開く。だが、すぐに瑠樹の瞳は瞼の裏側に隠れしまった。

 この様子に、真紘は思う。
(まだ眠いはず)
(昨日も遅くまで社にいたから)

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