90日のシンデレラ
 ***


 (ふ~、終わったよ~)
 (そこまで難しい内容ではなかったし、ホント、よかった!)
 (それに、皆さん、親切な人が多くてよかった~)

 どうなることかと思ったが、研修第一日目が和やかに終わった。グループセッションもあったが、それなりに意見陳述できたとも思う。
 わらわらと研修受講者が解散する中でホッとするもつかの間、真紘は鎌田女史に声掛けされた。

 「椎名さん、お疲れのところ申し訳ないのですが……」
 「?」
 「このあと、業コンのエントリーメンバーとの顔合わせをお願いできますか?」

 本日の業務終了を覆すことを、ばつが悪そうに鎌田女史がお願いする。

 (ギョウコン? なんだろう?)
 (ギョウコン? ギョウ、コン? あ、業務改善コンペだ!)
 (そうだ、私、別にコンペのこともあったんだった!)

 企画開発の研修では、あの田舎の職場で書いたレポートのことに一切触れられることなく終了した。業務改善コンペは完全に別案件だからか、本社にきてからこっち全く触れられていなかった。

 (ついにきたよ! あの苦情レポートのお叱りの瞬間が)

 正直にいおう、マンスリーマンションからマンションへ滞在物件が変更になったことで、真紘は浮かれていた。本社研修ではじめて自宅を出てひとり暮らしをすることになったのだが、その物件が映画のようなマンションであれば無理もない。
 あのオシャレなマンションにすっかり心囚われてしまって、不本意にも本社出向の一番の目的を忘れかけていたのである。


< 30 / 65 >

この作品をシェア

pagetop