90日のシンデレラ
鎌田女史に連れられて、真紘はあるミーティングルームに向かう。研修会場とは別フロアのその会議室には、すでにメンバーが揃っていた。
会議室は先まで受けていた研修会場と違い、中央に会議テーブルがひとつ、でんとある。そのテーブルには乱雑に書面が広げられ、四人のメンバーが真紘らの到着に気がつかず議論を白熱させていた。
場が落ち着くまでの間、案内された真紘はざっと部屋を観察した。
壁際にはホワイトボード、スクリーン、資料らしきファイルが詰まったキャビネットが並び、部屋の奥はパーテーションで区切られた個別スペース。
この感じ、少人数部門のオフィスだ。事務室のような頻繫に人が出入りするオフィスでなくて、特定の業務だけを担当しているようなヘッドクォーターっぽい。現にここに入室するのに、鎌田女史は社員証をかざして入り口ドアのロックを外していた。
短期滞在の物件がドラマのような素敵なマンションであれば、勤務先も映画のワンシーンのようなカッコいいオフィス。研修会場とはまた違う本社業務の空気を、肌に真紘は感じ取った。
「北峰さん、椎名さんをお連れしました」
鎌田女史は、慣れた感じでディスカッションの隙間にうまく声掛けする。
するとピタリと討論の声が止まり、部屋がしんとした。続いてリーダーっぽい人物が軽く手を挙げた。
(あれ? この人……)
手を挙げたのは、茶髪の緩いウェーブの男性。昨日の総合ガイダンスの休憩時間に一瞬だけ目が合った彼とよく似ていた。