90日のシンデレラ
 緩いウェーブの柔らかな茶髪は昨日と同じの、自然にキマったスタイリング。纏うは、スポーツブランドの長袖Tシャツである。
 本日は外部の予定が入っていないのだろう。かなり緩いオフィスカジュアルだ。
 このラフな服装の彼、真紘の記憶の中のあの彼によく似ていた。本当に、似ていた。とにかく、似ていた。
 そう、ここまでくれば否定しない。似ているのは当たり前、しっかりみれば昨日のあの本人なのだから。

 (ここで再会することになるだなんて……)
 (あの人、コンペ担当の人だったんだ)
 (ということは……)

 今回の本社出向の一番の試練である業務改善コンペの関係者が、昨日の茶髪ウェーブ男子とわかる。
 あの茶髪ウェーブ男子が関係者とわかれば、苦情でしかない真紘の業務改善レポートを、この彼が読んでいるということにも結論付いていく。
 さぁあ~っと、真紘は血の気が引く冷たい感じがした。

 (あのレポートを……)
 (あの人が、読んだ!)
 (よりによってあの茶髪ウェーブの彼が、コンペの担当だなんて!)

 嫌な予感しかしない真紘の横で、鎌田女史は、
 「では椎名さん、私はこれで」
 と真紘に笑顔を残し、スタスタと部屋を出ていった。

 (え?)
 (ちょっと待って!)
 (鎌田さん、いっちゃうの!)

 案内人の鎌田に礼をいうこともできず、真紘はただ茫然とするのみ。振り返り、鎌田の後ろ姿を目で追うのみ。
 ポツンと真紘は、はじめての部屋に残されて悲愴な顔つきになる。
 そんな真紘へ、四人のメンバーの視線が集中した。



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