90日のシンデレラ
 「コンペ関係の作業は、ここで行ってください。もちろん強制ではありませんが、業務との混乱を避けるためにデスクを用意したので、ご遠慮なく」
 山形女史の言によれば、本業とコンペの書類などの混乱を回避するためだという。業務の合間でコンペ案件に取り掛かるときは、ここで行えば集中もできるし、参考資料も揃っているので効率がいい。当然パソコンはもちろん、その他デバイスの使用も許可されていた。
 本社勤務でない真紘には、デスクなどない。なんともこれ、ありがたい対応であれば恵まれた環境でもある。

 (臨時職員の私にも、同じ待遇なんだ!)
 (うちの社からすれば、信じられないよ。デスクなんて、ぎゅうぎゅうのすし詰め状態だもん)
 (やっぱり親会社って、懐が大きいというか、お金持ちだ~)

 「まずは、こんな感じかしら?」
 と、ひととおりの説明を終えて山形女史が、背後の茶髪ウェーブに向かって確認する。

 「最終報告会まで二ヶ月もあれば、自然と顔と名前は覚えるっしょ。あとは扉のロック登録して、今日はおしまいにしようぜ」
 山形女史のラフな確認セリフに合わせたかのように、北峰の口調も砕ける。
 「?」
 昨日今日の鎌田女史や山形女史の丁寧さと真逆の北峰のさばけ方に、真紘は目が丸くなった。

 (と、都会の軽さって、いうのかな? これ)
 (いやいやいや、今日はもう業務時間が終わっているからで、日中は違うわよね?)
 (デスクを貸してもらえるのはいいんだけど、私、大丈夫かしら? このノリについていける?)

 最後に、山形女史にいわるがまま、真紘は首にかけた社員証を彼女に手渡した。
 山形は社員証裏側をスキャンして、デバイスに打ち込んでいく。五分と経たないうちに、真紘の社員証はこの部屋の鍵と化した。
 先ほど鎌田女史がしたように、真紘だって社員証をピッとすればこの部屋に入室できるようになったのである。
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