90日のシンデレラ
 昨晩の瑠樹は、取引先との接待で夕方から社を出てそのまま直帰ときいている。
 だけど彼の場合、直帰とはいうものの必ず社に戻る。社に戻ってから、自分のプロジェクトの続きをするのだ。

 このプロジェクトが何なのか、真紘は知らない。
 真紘が本社にやってくる前から取りかかっている案件らしく、その進捗はいまひとつ(・・・・・)らしい。
 にっちもさっちもいかない案件を抱えた瑠樹は、時間がないと、通勤時間が惜しいというのである。
 そして案件に集中する時間を捻り出すために、真紘の借り上げマンションが仮眠部屋に選ばれたのだった。

 真紘が隣にいるのを確認して安心したのか、無謀な顔のままで瑠樹は夢の中に戻っていく。
 この様子では、昼前まで爆睡だろう。

 瑠樹の平日の睡眠時間だって、例の案件のお陰で病的なまでに短い。休日ぐらいはゆっくりさせてあげたい。でないと、こんな生活を続けていれば、いつか瑠樹は倒れてしまう。
 真紘は、ごくごく普通のカノジョの心配をする。

(今のうちに、洗濯機をセットして……)
と、真紘は休日の家事に取りかかることにした。
 恋人を起こさないように、そっとシーツから抜け出した。

 が……
 シーツから抜け出したが、真紘は腕を掴まれた。

(!)

 そのまま柔らかい力で、後ろへ、ベッドの中へ引っ張られる。

(え?)

 真紘の視界が部屋の壁から天井へと入れ替わる。
 一瞬のことであれば、何が自分の身に起こっているのか真紘はわからなかった。

(何?)

 気がつけば、半分以上シーツの外にあった真紘の体が、仰向けの状態でシーツの中に戻されたのだった。

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