90日のシンデレラ
 荷物は受け取った。送り主からは「受け取れ!」だけとしかいわれていないので、余計なことはしない。それが終われば、もうここから先は自分の自由時間である。
 今日は休みだから、ちょっと遠出ができる。本格的に生活環境を整えるのにちょうどいい。
 と同時に、そういう日常雑務以外のことをするのにも、うってつけである。
 日常雑務以外のこと、それは都会の生活を楽しむという余暇である。ここ都会には田舎にはないものがたくさん揃っているのだ。有名美術館や博物館にはじまって、品ぞろえが地方とは断然違うデパートとショッピングモール、オシャレなのはカフェだけでなく映画館だってそう。
 予算のこともあれば、まだ地理に不案内な真紘である。でも三ヶ月の東京生活を謳歌しないわけにはいかない。こんなチャンス、残りの人生で訪れることがあと何回あるだろう? 下手をすると、これが最初で最後かもしれない。

 (まずは……)
 (食料調達と合わせてデパ地下散策かな)
 
 正直にいおう、真紘はテレビで見るデパ地下のフードフロアへいってみたくって仕方ががなかったのである。
 もちろん都会にしかないショップも魅力的であるが、予算に気兼ねなくお買い物ができるのは「スイーツ」をはじめとした食品ではないだろうか? その中でもさしずめ、「パン」こそが手が伸ばしやすい。

 (まとめ買いして、全部朝ごはんにしちゃおうっと)
 (どんなパンがあるかしら?)
 (うわ~、楽しみ)

 家を出る前に北峰から荷物をもう一度、確認する。受け取り伝票は、一番手前の段ボールの上にまとめておいた。これで本人がやってきたときに慌てることはない。
 出勤時とは違うフラットシューズを履いて、軽い足取りで真紘はマンションを出たのだった。
< 43 / 159 >

この作品をシェア

pagetop