90日のシンデレラ
 北峰とはエレベーターの一件からこっち、会っていない。
 企画開発研修が本格的にスタートし、真紘はその課題で一日が終わっていた。残業などしていないのに、専門外の研修に集中した結果、終業時間になれば疲労困憊でもう真紘はフラフラだ。
 本来なら、このあと業務改善コンペの分に取り掛かるのだが、もう無理だった。

 幸いなことに、業務改善コンペは今のところレポートが課されているだけ。
 わざわざあの専用ルームにいってレポート作成をしても、企画開発研修で頭を使いすぎて何も浮かばない。PCに向かって、改めて文字を打つなんてできそうになかった。
 このレポートについては、現段階ではまだ自宅で作業可能。ゆえに業務終了後の真紘は業務改善コンペ部屋には寄らず、一目散に帰宅していた。

 疲れていてはまともなアイディアが浮かばないし、文章だってきっと支離滅裂だろう。休憩は大事である。
 それに食事の確保だって、仕事と同じくらい大事なこと。はじめてのひとり暮らしともなれば、真紘にとって毎三食の用意はなかなかの試練であった。

 そういうわけで、真紘は北峰とはあれ以来顔を合わせていない。
 あのコンペ部屋にいけば、きっと北峰と顔を合わせる。だって、彼は業務改善コンペの責任者だから。
 そして、会えばきっと部屋の間借りのことで、いろいろ北峰はいってくるだろう。その証拠に真紘が意識して北峰を避けていると知ってか、北峰は荷物を受け取れとメールを出してきた。

 そうやって上手にかわしてきた北峰が、いる、このマンションの部屋のどこかに。
 そう思うと、真紘は心臓の鼓動が急に早くなるのがわかった。面積こそは広いのだが、この閉鎖空間にふたりきりというのはあのエレベーターの押し問答と同じ状況である。

 玄関で靴を見つけてから、真紘はしばらくその場で硬直していた。
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