90日のシンデレラ
 リビングダイニングから順番に部屋を覗いていく。北峰はいない。最後に午前中に荷物を入れた部屋を覗けば、開梱された跡。ここにも北峰はいなかった。
 段ボールがきれいに折り畳まれて、壁に立てかけられている。空だったクローゼットにはスーツが三本つるされて、床には丸められたヨガマットが二本と、登山用らしきナップザックがある。そして、玄関に例の革靴だ。
 どうやら北峰は、真紘が留守のときにやってきて、荷物を整理し、真紘が戻ってくる前に去っていたらしい。

 (あー、緊張して、損した!)

 糸が切れたように、真紘はその場に座り込んだのだった。


 ***


 北峰が同じ空間にいないとわかっても、どうも真紘は落ち着かない。
 あの革靴をみた瞬間から、ずっと真紘は悶々となっている。
 「休みには、休みのときにできることする」と意識を切り替えても、ふとした家事のすき間時間に思考が北峰のことへと舞い戻ってしまう。
 
 ――シーナちゃんちの部屋、オフィスに一番近いじゃん。俺、今さぁ、面倒なプロジェクト抱えていて、通勤時間を節約したいんだよね~。でもオフィスに泊まり込むのは社長命令で禁止なんで、近い寝床を探していたんだ。
 
 (面倒なプロジェクトを抱えているって、それは本社社員の使命だろうな)
 (でもそれ、どんな内容なんだろう?)
 (泊まり込みが必要となるような、納期が短いもの?)

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