90日のシンデレラ
 仰向けになった真紘の正面に、瑠樹の顔。しかも近い。
 そして体も近い。
「まひろ、勝手に離れるんじゃない」
 おはようの挨拶よりも先に、真紘を押し倒した状態で説教を垂れる瑠樹がいた。

(ね、眠ったんじゃなかったの?)
 少し頭を起こせば瑠樹の唇に触れそうで、真紘はドキドキする。
 明るい朝の部屋でみる至近距離の瑠樹に、瑠樹のカノジョの真紘は赤面してしまう。日の浅いカノジョゆえに、まだまだこういうことには初心(うぶ)な真紘である。

「お、おはよう、ございます。よく寝ているから、ね、寝ているうちに、あ、朝ごはんの用意を……」
 休日の朝の正当な行動を、たどたどしく説明する真紘がいる。

 こうもしどろもどろなのは、なぜなのか?

 そうそれは……
 瑠樹に甘く拘束されているから。
 いつの間にか、真紘の両手は瑠樹と恋人繋ぎにされてシーツに縫い留められている。
 下半身だって、ピタリと触れる肌が温かくて、固い。
 ありありと男女の体の作りの違いを意識させるこの体勢は、なんとも悩ましい。
 この状態で理性的に弁明しようとするのは、とても難しい。

「俺の許可なく、離れるのは許さない」
 まるで平日のオフィスでいわれそうなセリフ。
「でも、お腹、空いたでしょ?」
「うん、それは正解」
「ご飯を作るから。できるまで、もう少し寝ていて」
「うーん、じゃあ、先にいただいてから」
「?」
 至近距離の瑠樹の唇がもっと近づいて、真紘の唇に重なった。

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