90日のシンデレラ
 ***

 目覚めれば、月曜日。週のはじまりで、仕事開始だ。
 休日は北峰の件で、すっかり台無しにされてしまったが、しっかり眠ってしまえば嫌なことは全部忘れてリセットできた気がする。
 休みは台無しにされてしまったけれど、真紘には「アレ」があった。

 「アレ」とは、土曜日に買ってきたパンである。田舎にはないオシャレで高級なデパ地下パン屋のクロワッサンとブールがあるのだ。
 朝の爽やかな陽射し注ぐダイニングで、美味しいパンを頬張る。なんとアーバンで素敵なことだろう? これを食べて、一週間を乗り切るのだ。
 翌日からの仕事のテンションを上げるために、真紘はわざとダイニングテーブルの中央にとっておきのパンを置いて就寝したのだった。

 「あれ?」

 あのクロワッサンを食べるぞと、真紘は浮き浮きでリビングダイニングの扉を開く。
 すると、何ということだろう。目の前のダイニングテーブルには、何も載っていない。

 「パンがない! 何で?」

 昨晩、不貞腐れながらも自分を鼓舞させるために用意したパンが、影も形もない。

 (おかしいな?)
 (出してあったつもりなのに、勘違いしていた?)

 何気にダイニングテーブルそばのゴミ箱を覗く。

 「え! うそ!」

 バラエティーショップで買ってきたばかりのオレンジ色のゴミ箱には、小さくまとめられた透明な袋の残骸があった。
 嫌な予感がして、真紘はシンクを覗く。シンクには、水をはったグラスがひとつ。まさかと思い、真紘は冷蔵庫を開けた。
 土曜日にデパ地下で大量のパンを買い込んだ。それと一緒に真紘は大瓶のぶどうジュースも購入した。普段の朝食はインスタントコーヒーだが、今朝はあのパンに合わせてちょっとリッチなドリンクにしようと奮発したのだ。
 案の定、冷蔵庫にあるのは半分になったぶどうジュースの瓶。これも知らないうちに飲まれていた。

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