90日のシンデレラ
もうここまでくれば、わかる。
真紘以外の人物がこのリビングダイニングにやってきて、真紘が楽しみにしていたデパ地下のパンとジュースを平らげたのだと!
そんなことができる人物は、ただひとり。それは、鍵を持つ北峰しかいない。
「…………」
食べ物の恨みは恐ろしい。なまじ、とても楽しみにしていただけに。通常よりも倍増する。
「…………」
断りもなく私のパンを食べた、許せない! もうその気持ちしか今の真紘にはない。
真紘は踵を返すと、手前の部屋から扉を開いていった。
一枚ずつ扉を開いて、部屋に踏み込む。文句をいう気満々で。
一枚目は空振りに終わった。
二枚目の扉に手をかける。バンと開けて覗けば、誰もいない。
三枚目の扉は、あの荷物を入れた部屋だ。きっとここに、北峰がいる! 怒りに任せて、この扉も大きく開いた。
「えー、うそぉー」
そこにも北峰の姿はなかった。
幽霊がやってきて、真紘の朝食を平らげてしまった――そんなこと、絶対にない!
では、朝食泥棒はどこに?
すっかり出鼻をくじかれた真紘は扉を元通りに閉めて、すぐ横の玄関をみた。
「え? うそだー!」
玄関の三和土には、北峰の靴がある。だが、その靴はスニーカー。昨日の革靴ではない。
あらためて真紘は、いま閉めたばかりの扉を開いて、部屋を再確認する。
壁には立てかけられた段ボール、床にはきれいに巻かれたヨガマットと黒いナイロン製の鞄、クローゼットにはスーツがかかっていて……昨日と同じ。
だが三着あったスーツが、二着に減っていた。
このスーツと靴ですべてが説明できる。
昨晩、北峰はこの部屋にやってきた。
いつきたのかはわからない。まったく真紘は気が付かなかったから、きっと深夜で、それも丑三つ時ぐらいだろう。
やってきてからの彼の行動も不明。だが、これだけははっきりわかる。
ダイニングテーブルの真紘のパンを食べて、冷蔵庫のとっておきのジュースを飲んだ。そのあとスーツに着替え、靴を履き替えて、この部屋から出ていったのだ。
真紘以外の人物がこのリビングダイニングにやってきて、真紘が楽しみにしていたデパ地下のパンとジュースを平らげたのだと!
そんなことができる人物は、ただひとり。それは、鍵を持つ北峰しかいない。
「…………」
食べ物の恨みは恐ろしい。なまじ、とても楽しみにしていただけに。通常よりも倍増する。
「…………」
断りもなく私のパンを食べた、許せない! もうその気持ちしか今の真紘にはない。
真紘は踵を返すと、手前の部屋から扉を開いていった。
一枚ずつ扉を開いて、部屋に踏み込む。文句をいう気満々で。
一枚目は空振りに終わった。
二枚目の扉に手をかける。バンと開けて覗けば、誰もいない。
三枚目の扉は、あの荷物を入れた部屋だ。きっとここに、北峰がいる! 怒りに任せて、この扉も大きく開いた。
「えー、うそぉー」
そこにも北峰の姿はなかった。
幽霊がやってきて、真紘の朝食を平らげてしまった――そんなこと、絶対にない!
では、朝食泥棒はどこに?
すっかり出鼻をくじかれた真紘は扉を元通りに閉めて、すぐ横の玄関をみた。
「え? うそだー!」
玄関の三和土には、北峰の靴がある。だが、その靴はスニーカー。昨日の革靴ではない。
あらためて真紘は、いま閉めたばかりの扉を開いて、部屋を再確認する。
壁には立てかけられた段ボール、床にはきれいに巻かれたヨガマットと黒いナイロン製の鞄、クローゼットにはスーツがかかっていて……昨日と同じ。
だが三着あったスーツが、二着に減っていた。
このスーツと靴ですべてが説明できる。
昨晩、北峰はこの部屋にやってきた。
いつきたのかはわからない。まったく真紘は気が付かなかったから、きっと深夜で、それも丑三つ時ぐらいだろう。
やってきてからの彼の行動も不明。だが、これだけははっきりわかる。
ダイニングテーブルの真紘のパンを食べて、冷蔵庫のとっておきのジュースを飲んだ。そのあとスーツに着替え、靴を履き替えて、この部屋から出ていったのだ。