90日のシンデレラ
 勝手に侵入して、着替えて、出ていった。ここまでは、いい。いや、本当はよくないのだが、ひとまず、いいとしよう。無害だから。
 でもパンを食べられたことには、納得がいかない。
 これって、無銭飲食じゃないか! この仕打ち、どうしてくれよう。

 目覚めてすぐに怒り心頭となった真紘だが、時間が経過してくれば、冷静さも復活する。
 どんなに怒り狂っても、現実は月曜日の朝である。もう数十分後には、出勤しなくてはならない。
 あらためて冷凍したパンを焼いて、朝食にする。飲み物はぶどうジュースでなく、インスタントコーヒーを淹れた。
 テンション下げ下げの中で、どこか味の薄いパンを頬張りながら、今日の予定を組み立て直した。

 今日から企画開発研修が次のフェーズに入る。例の業務改善コンペの課題の〆切はもう少し先だから、本日は企画開発研修に集中するつもりであった。
 でも、それを返上する。企画開発研修の内容次第だが、業務終了後、あの業改コンペ部屋へいくと真紘は決める。名目は課題レポートの提出だ。

 実は、課題のレポートはとっくにできている。急いで出すこともないだろうし、北峰との接触を極力避けていたこともあって、真紘は提出をわざと遅らせてあった。
 レポート提出にいけば、きっと北峰以外の人間も業改コンペ部屋にいる。北峰の補佐の山形女史が、一番の有力候補だ。そんな状況が容易に想像できた。
 ここから北峰と一対一となって、間借りのことや食べられたパンのことを論争するには、どうすればいいのか?
 今の真紘には、何も思いつかない。ただひたすら、終業時間までにいい手が見つかることを願うのみだ。
 我ながら、無策だなぁ~と思う。
 でも今日は、何が何でも北峰と会って、今後のことをはっきりさせねばと真紘は思う。

 そうこうしていれば、家を出る時間である。余計な確認が入ったがばかりに、慌ただしい朝となってしまった。
 歯を磨こうと洗面所へいけば、真紘はある違和感を見つける。洗面台横のタオルラックに掛けてあったタオルがないのだ。
 またもや嫌な予感がして、近くの洗濯機を覗き込んだ。そこにはタオルラックにあるはずのタオルと、真紘が使った覚えのないバスタオルが突っ込まれていたのである。
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