90日のシンデレラ
 ギシギシと、シングルベッドが軋む。
 備え付けのベッドであればベッドスプリングは貧弱だ。ふたり分の体重をしなやかに分散させることはできなくて……
 朝から大いに揺れる。ベッドも、真紘も、ふたりを包むシーツも。

 (いただきますの……)
 (意味が違う!)
 (あ、そこ……)

 「まひろ、まひろ、真っ赤になって、かわいいな」
 耳元に瑠樹の声。
 よがる真紘を確かめて、満足気に瑠樹はささやいた。さらにセリフを告げたその唇が、真紘の耳たぶを食む。
 こねこねと舌先が真紘の耳穴を擽って、刺さった屹立が足奥深くで暴れている。
 両手は恋人繋ぎのままで、いいように真紘は瑠樹に突かれていた。


 †


 「へー、まひろ、うまくなったじゃん!」
 ダイニングテーブルの向かいに座る瑠樹が、真紘の作った目玉焼きを褒めた。瑠樹に教えられたとおりに焼いて、出しただけなのだが。
  この焼き方、実は真紘でなくとも誰だって焦がさず焼ける焼き方である。

 
 「食パンの火の通りも、いい。このくらいの焼き加減が一番うまい」
 と、瑠樹はシナモンシュガートーストを頬張る。
  二枚焼いたのだが、二枚とも瑠樹はぺろりと平らげた。あっさり真紘のトーストがなくなった。
 予備として買っておいたバターロールを温めて、真紘は口にした。
 「うーん、目覚めのコーヒーはうまいな。運動したあとでもあれば」
 などと、朝っぱらからのふれあい(・・・・)をそう瑠樹は表現した。
  澄まし顔の瑠樹に対して、真紘は目が泳いでしまう。

 「お前、わかりやす!」
  くっくと苦笑いする瑠樹がいる。目玉焼きをつついていたフォークが、小さく空中で揺れた。
 「飯は壊滅的なところがあるのに、コーヒーだけは上等だな」
 褒めているんだか、貶しているんだか、訳のわからことコメントともに、瑠樹はどんどん皿を空にしていく。

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