90日のシンデレラ
 「なーんだ、瑠樹さんとミーティングできると思って頑張ったのになぁ~。残念ーーー」

 マダム山形のセリフに、大村女史のトーンが下がる。いかに大村が、その『るきさん』とお会いしたかったのがよくわかる。
 ここで、真紘は気が付いた。

 (あれ?)
 (今日、出張に出ているのは……)
 (北峰さん、のはず)

 あれこれ思考する真紘の横で、マダム山形と大村女史の会話は和気あいあいと続いている。その内容に、ちらちらとあの『るきさん』が出てくる。急に降ってわいた『るきさん』がこう何度も繰り返されると、真紘は気になってきた。

 (確認したほうが、いいかしら?)
 (今後もその、るきさんって人が話題に出てきそうだし)
 (そうよ、この部屋に出入りしていれば、そのご本人に会うこともあり得るんだから)

 「あの、よろしいでしょうか?」
 思い切って真紘は会話に割って入った。
 「はい、どうぞ」
 特に気分を害することなく、大村女史が受け答える。
 「お話の中で出てくる、るきさんって、どういった方なのですか?」

 この真紘の質問に、ふたりはきょとんとなる。
 「そうね、椎名さんは本社勤務じゃないから、無理もないわね」
 そうマダム山形が断って、大村女史が続けた。
 「北峰さんのことよ。この社では「北峰」姓が多いから、下の名前で呼ぶのが暗黙の了解みたいになっているのよ」

 大村女史が会いたい会いたいといっていたのは、コンペ総括の「北峰」のことだった。
 真紘は北峰の下の名前が「瑠樹」というのを、ここではじめて知ったのだった。
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