90日のシンデレラ
 もちろん同世代の女子会は、そんな社の話だけでなく、もっとキラキラした話題も繰り広げられる。
 大村に促されるまま真紘は、上京の感想を話す。田舎者の感想だから、都会の大村にすればきっとおかしなものに違いない。案の定、本社ビルのカッコよさや本社社員のスマートな勤務姿に惚れ惚れしたといえば、大村はクスクスと笑う。

 「もう、大袈裟なんだから」
 「いえ、私にすればドラマのような世界です」
 「こっちにすれば、田舎の大自然の中の生活がドラマだよ~」

 業務改善コンペのことも話題にあがり、ここでも真紘は新しい情報を手に入れることができた。
 それは、コンペ期間は二ヶ月あるが三週間ごとに予選を行い、エントリー数が絞られていくということ。落選と同時にコンペ案件は終了となり、落選者は本来の業務に戻っていくとのことだった。

 真紘の場合、企画開発研修がメイン業務となる。これは三ヶ月あるので、業務改善コンペで落選しても即、本社出向終了にはならない。真紘の派遣期間は、あくまでも研修終了まで。
 つまり落選すると、そこから先は少ない仕事量となって本社に居座るということになる。これ、なかなか肩身の狭いものがある。

 (業務改善のほうは、さっさと終わりにしたいのが本音だけど……)
 (あまり早くに姿を消すのも、格好悪いわね。落選しても、しばらく本社ビルに通うんだから)
 (孫会社のあいつ、もう消えたぜって、企画開発のほうで噂になりそう)

 孫会社代表ゆえに、自分の体裁だけでなく孫会社の面子も気になってしまう。真紘に孫会社代表の意地があるとしてもそれだけで、本社社員と対等にやっていく能力はというと、疑問符が付く。
 自分の無能さ加減が、いつ暴露されることになるのか?
 戦々恐々とそんな心配が湧きあがる中、真紘は大村からこんな質問をもらった。

 「ねぇねぇ、椎名さんは、瑠樹さんのこと、どう思う?」
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