90日のシンデレラ
 「え? 北峰さん、ですか?」
 「そう。今日会えなかった瑠樹さんよ。外部から(・・・・)は、どうみえる?」

 あっと、真紘は思う。
 大村の質問は、恋愛とかそういうものではない。ないと、真紘は思う。「外部からは、どうみえる?」なんて、営業回りする上で彼のことがよく話題にされるからだと思われた。

 「えっと、そうですね……」
 真紘の言葉尻が、曖昧になる。
 どうといわれても、真紘は回答に困る。慣れない都会の生活と本社勤務で、そこまで考える余裕はなかったのだ。それに本社での彼の地位は高そうだが、具体的には知らない。

 「私はカッコイイなと思うんだけど、これ、同じ本社勤務ゆえの贔屓が入っていると思うんだ。客観的にみて、どうかしら?」
 客観的にといわれて、真紘はほっとする。一般的なことを訊いているのだ。そういうことなら、上京した日のガイダンスでみた北峰の印象をそのまま伝えればいい。
 「そうですね、俳優さんみたいな人がいるなぁ~って、思いました」
 「うん、それで」
 真紘がそう伝えると、ニコニコ顔で大村はもっと要求した。

 (え?)
 (あ、そうか!)
 (自慢の上司だから、やっぱり褒めてもらいたいわよね)

 ここはリクエストに応じなければ――変な同志意識みたいなものが湧いてきて、北峰について真紘はもっと思い起こしていく。
 北峰の第一印象は、本当に都会の洗礼された本社社員だと思った。本社勤務ときくとすごく堅苦しい感じがするが、そうではなかった。これも伝えていいだろう。

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