90日のシンデレラ
 あらためて北峰と真紘は向かい合い、リビングダイニングのテーブルセットに付いた。そのふたりの間には、ノートPCが二台。北峰のと真紘のPCだ。
 そのPC画面に映し出されているのは、夕方真紘が提出した業務改善コンペの課題レポートのPDFファイルである。
 そう北峰のいう本題とは、間借りの詳細を決めるのではなく、業務改善コンペの個別指導であった。

 (山形さん、一日の終わりにまとめてスキャンして送るっていっていたけど……)
 (信じていないわけではないけど、本当に送っていたんだ。本社のスピード、速すぎ!)
 (受け取った北峰さんも北峰さんもだよ~。読むだけでなく、こんな業務時間外にやってきて、個別ミーティングを行うなんて……ブラックすぎないか?)

 目の前の北峰は、厳しい表情でPC画面をずっと睨んでいる。帰宅路中に事前に確認してしていたとはいえ、彼はもう一度頭の中で整理しているようだ。真紘は不安と緊張でドキドキしながら見守るのみ。
 少しピリピリした間が開いて、口火を切ったのは北峰のほうだった。

 「レポートを読ませてもらったが、問題提起はそれでいいとして、俺が覚えている限り、これは二ヶ月前にみたのとほぼ同じ内容なのだが、相違ないか?」
 「!」

 ズバリの真実の、かつ触れられたくない指摘をもらう。ミーティング開始早々、手痛い北峰の回答であった。
 あれは、まだまだ問題提起の初期段階であれば、真紘は最初のものを少し手直ししただけ。元は違う案件で書いたレポートだったから、他部門のことまではわからないだろうと高を括って提出した。

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