90日のシンデレラ
 ガツガツと食べる瑠樹をみていると、真紘は本社社員の貪欲さを感じ取る。彼の大飯食らいは、”早い者勝ち”とか、”弱肉強食”とかいうフレーズを体現化しているかのようだ。
 真紘の分までも食い散らかして、瑠樹の朝食が終わった。

(やっぱり、足りなかったか)
(まぁでもいいか)
 昨日の買い出しは帰宅が遅くなったせいで売り切ればかりで、満足な買い物ができなかった。
 こうなることを予想してあったから、真紘は今朝は少ない朝食で我慢すると決めていた。

(お昼にその分たくさん食べよう)
 今日は日曜日だ。
 平日は残業残業の瑠樹だから、退社後にデートなどしたことがない。それを埋め合わせるかのように、週末はゴージャスに過ごしている。
 だから今日もこの朝食の片付けのあとは、楽しいお出かけになると真紘は信じていた。
 いそいそと真紘が終わった食器を洗いはじめる。
 その真紘の後ろで、瑠樹も身支度を整える。

「真紘、じゃあ、いってくるわ」
「はい?」
(いってくるって、どこへ?)

 泡だらけのスポンジを手にしたまま真紘が振り返れば、スーツ姿の瑠樹がいた。
 寝癖はなくなり、顔は髭を剃っただけでなくメンズコスメで肌がピカピカだ。この瑠樹の姿、幹部接待に出るかのようで……

「一昨日に、外せないミーティングを入れられた。だから、今日は一緒に過ごせない」
「はい?」

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