90日のシンデレラ
 ここで真紘は、主任のセリフを思い出す。

 ――本社がいうには、あの報告書はとてもよくできていて、是非とも本社へきて改革に参加してほしいとのことだ。
 ――本社の担当者がいたく気に入って、本社と子会社の密なる連携構築に椎名さんの意見を詳しくききたいそうだ。

 (主任のいっていた担当者って、もしかして北峰さん……だったってこと?)
 (もしそうなら、今からどれだけ追求されるのか!)
 (今のこの状況、まるで刑事ドラマの刑事と容疑者の取り調べみたいじゃん!)

 本社へ上る直前の、忘れかけていたあの気分が蘇る。遅かれ早ければこの瞬間はやってくる。今まで絶妙なタイミングで横槍が入り、延びに延びて気持ちが緩んでいた。だが、ここが腹のくくりどころだろう。

 (ああ、変に取り繕っても……仕方ないわよな)

 「はい。仰る通りです。まだ問題提起の段階でも初期の初期なので、内容を単純化したつもりです」

 手を抜いたといわず、簡潔を目指したという。自分でいっておきながら「ものはいい様だなぁ~」なんて、真紘は思う。

 「そうか。でも、コンペとしてはもう少し、厚みがほしい。このままでは、『わが社ではこんなことがありました』という報告書でしかない。まずは、ここにある本社と子会社の連携の問題点が椎名さんの社だけのことなのか、全子会社でも同様のことが起こっていないのかをはっきりさせて……」
 と、北峰はレポート記載の追加内容を口にした。
 特に真紘の『手抜き』には、言及しない。その点では、ホッとした。

 本題も本題なミーティングがはじまる。北峰からは追加要望だけでなく、日本語の語法もチェックも入る。レポートの内容以前に、レポート作成の未熟さも暴露された。
 いろいろあって、追加内容はひとつでは終わらない。はじめは「三つぐらいかな」とのんきに真紘は構えていたが、彼の指摘は休みなく次から次へと続く。

 (こ、これは、マズい!)

 「ちょっと、待ってください!」

 指導点が五つを超えたあたりから、慌てて真紘はストップをかけた。
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