90日のシンデレラ
 (襲われたらどうしようとか、バリケードを作ったりしたけど……)
 (これって、買いかぶりすぎ?)
 (現にパジャマ姿の私をみて、北峰さん、素だったし)

 ミーティングの内容がガチな上に想定外でパンをもらったりしてすっかり忘れてしまっていたが、よくよく考えてみれば真紘はパジャマであった。寝る前だからノーメイクのすっぴんで、パジャマの下はショーツ一枚のみのノーブラという無防備さである。

 (普通なら……)
 (普通なら……とても危険な状況のはずなのに)
 (何にもなかった!)

 この事実に、真紘は女としての自信を失ってしまう。全然自分に色気がなかったことが、はっきりと証明されたのだった。

 (一応、年頃の女性なんだけど……)
 (ああ、やっぱり、眼中にないってこと)
 (そうよね、北峰さんみたいな人が女に不自由しているわけがないだろうし)

 エレベーター内での「部屋を貸せ」「嫌だ」の問答からこっちの心労は、一体何だったのか?
 ミーティングのあとに高級パンをもらったが、これもこれで対応に困る。「詫びの品だ」「これ食って、しっかりレポート書けよ」なんていわれてしまえば、一方的に北峰を悪者にできなくなってしまった。
 こんな具合にここ数日の間、真紘の気持ちは大きく揺さぶられた。あたふたしていたのは真紘ひとりだったのではと思えば、脱力感とともに情けなくもなってくる。

 都会の人は多少の刺激的なことは何でも慣れていて、それに翻弄される私みたいな田舎者はいい笑い者なのだろう。そう思うと、ますます真紘は馬鹿らしくなってきた。

 (悔しいものがあるけれど、いい経験をさせてもらったとして研修に集中しよ)

 うまく真紘は気持ちを切り替えることができたのだった。
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