90日のシンデレラ
 (次に北峰さんと会うのは、レポート提出後になるはずで……)

 (くだん)の北峰とは、提出日まで接点はないと真紘は考えていた。
 依然、間借りのことはうやむやのまま。その北峰は、スーツからオフィスカジュアルに変身するためだけにここを使う。だから彼がここに泊まることはない。
 そう結論付けば、間借り申し入れからずっと続いていた緊張から解放された。ついに真紘はひとりの東京生活をエンジョイできる瞬間がきたのだ。

 しかし、そんな真紘の見通しは、またもや裏切られる。
 北峰はやってきた。業務改善コンペの課題とは関係なしに、真紘の借り上げマンションを訪れたのだった。



 北峰からパンをもらったのは月曜日の夜、その翌日は平和だった。昼間に彼が訪れた形跡はなかったし、夜も静かだった。
 だがその次の朝、つまり水曜日の朝は、そうではなかった。

 リビングダイニングへいけば、まず冷蔵庫にぶどうジュースが追加されていた。真紘が土曜日にデパ地下で買ってきた瓶とは別の紙パックのぶどうジュースだ。それとは別にパイナップルジュースの紙パックがあって、こちらは封が切られていた。
 身に覚えのない「パイナップルジュース」と、シンクに使用済みのグラスを見つける。一度みたことのある、光景である。

 すぐに真紘はパンを確かめた。案の定、パンが減っていた。真紘の買ってきたパンでなく、北峰が買ってきたほうのパンが。
 真紘が眠っているうちに北峰はやってきて、真紘の眠っている間に自身が買ってきたパンとジュースを食して、真紘が眠っている間に出ていっていた。

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