90日のシンデレラ
 コンペ部屋入り口ドアに社員証をかざす。ピッという電子音が響いて、ロックが外れる。
 今日で二回目の「ピッ!」だ。この音、気持ちいい。
 この部屋はコンペ関係者だけしか出入りできなくて、自分はこの入場制限から外れている。「ちょっと特別なのよ」という優越感を少し感じながら、真紘は中に踏み込んだ。
 同時に、和やかに談笑する男女の声が真紘の耳に飛び込んできた。

 「瑠樹さん、それおかしいです!」
 「そうか? でも逆の立場で考えると、その販促費は不要じゃないか? 俺はもったいないなと思うけど」
 「オマケを期待する顧客は多いです。高額なものでなくていいんです、オマケがあるってことが大事なわけでして……」

 大テーブルの角を挟んで北峰と大村女史が座っている。ふたりの間に大村のノートPCがあり、それぞれがマグカップをそばに置いてある。そしてそのPC画面を一緒に覗きながらディスカッションしていた。そう、いまここで大村の個別ミーティングが行なわれていたのだった。
 ふたりの声は元気よく、会話は弾んでいる。手元には飲み物を携えてという余裕の姿。このわきあいあいとした協議の場に、真紘は足が止まった。

 先日の真紘のミーティングは、北峰が不備点を指摘をするばかりの一方的なものだった。真紘はまったく反論できなかった。
 だが目の前の大村女史の場合は、そうでなくて北峰と対等。誰がみても、有意義なミーティングを行っている最中であった。

 (あー、本社社員は、すごいな~)

 真紘の素直な感想である。「コンペ期間中は一緒に瑠樹様を盛り上げていきましょうね!」という大村女史のセリフも脳裏に甦る。熱心にアイディアを口にする大村の瞳はとてもキラキラしていて、あの帰り道と同じであった。
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