90日のシンデレラ
 今日はスーパーでチキングラタンを買ってきた。出向直後こそはお弁当を作っていたが、夕方のスーパーで総菜が安く手に入ることがわかってからは、それを放棄した。実家住まいで料理経験の乏しい真紘の場合、日々の食事を残り物の総菜で間に合わすほうが、金銭的にも時間的にも合理的だと気がついたのだった。
 もう弁当も作っていなければ、夕食も半総菜やセール品で済ませてしまう。朝食だってパン食に切り替えて、そのお伴はコーヒーやスープで充分。
 悲しいかな、これではまるで宅外通学男子大学生のような生活だ。だけど三ヶ月のことだし、何といってもこれのほうが安く上がるので、お金には逆らえない。

 本日も例のごとくマイバッグにセール総菜を詰め込んだ。真紘が我が家にたどり着けば、革靴とスニーカーが一足ずつ玄関に並んでいた。
 北峰はここで間借り生活を行っているにもかかわらず、真紘とは必要最低限の接触しかない。社ですれ違ったとしても、真紘は軽く会釈をするのみで、北峰のほうも気づけば軽く手を挙げるぐらい。
 本日は遠目で北峰のことを見つけた。そのときの彼はオフィスカジュアルスタイルで、それに合わせてローファーを履いていた。

 (服に合わせて靴を変えるのは、基本といえば基本なんだけど……)

 何気に下駄箱を開けると、真ん中から上の棚には男物の靴が、ぎっしりとある。しかも、また増えていた。
 また増えていた――そう、オシャレ男子北峰は、服にこだわれば靴にもこだわる。ここにくる度にその靴を脱いで、必ずといっていいほど別の靴に履き変えて出ていってしまう。ちなみに、これはすべて真紘が眠っている間のことである。

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