90日のシンデレラ
 それは数日前に真紘が提出した、業務改善コンペのレポートだ。この一ヶ月の間に、幾度となく真紘は北峰にコンペ案件レポートを提出している。
 真紘がレポートを提出すれば、遅くとも二日後に北峰は返してきた。たくさんの赤ペンチェックと次のステップへの指導を付けて。

 (今回は、どうかな?)

 初回のレポートこそ、このリビングダイニングで個別ミーティングをいただいた。それからあとは、違う。
 提出すれば、今のようにリビングダイニングに北峰は添削レポートを置いていく。自分の着替えのついでといわんばかりに、チェック済みのレポートを残して消えるのだ。

 ざっとレポートを確認すれば、どのページにも赤ペンチェックがついている。でも、今回は前回よりも数が少ない。一度チェックされた項目を再び繰り返さないを、真紘が忠実に行っている結果である。
 今回の見直し要求は、内容に対するもの。もっと説得力のある資料をつけろとか、もうふたつほど改善案を増やせとかという類だ。

 (これ、調べるにもコンペ室でないとアクセスできないな)
 (明日は企画開発で社外に出るから……)
 (明後日の午後の早い時間に、お邪魔するか)

 北峰のチェックから、コンペ案件の次の段取りを決めていく。企画開発研修の進行状況も考慮した結果、提出目標は明後日の作業終了時だ。

 実際のところ、コンペ案件は最初のミーティングをこの部屋で行ってからこっち、今みたいな書面のやり取りだけで進めていた。大村のようなコンペ室での個別ミーティングは、一度もない。
 真紘がレポート提出にいけば大抵北峰は誰かとミーティングしていて、かつそれは誰であってもヒートアップしていた。そこに割って入り込む隙がなければ、真紘にそんな度胸もない。いつもマダム山形へ手渡だけして真紘は帰っていたのである。

< 85 / 155 >

この作品をシェア

pagetop