90日のシンデレラ
 「北峰さん? 何でここへ」

 真紘は目が丸くなる。だって、今日は金曜で、時間だって十時過ぎだ。今週の業務は終わっている。彼がここに現れるわけがない。

 「いや~、ついさっき、ずっと俺がメインで進めていたプロジェクトがやっと承認されたんだ。規格外すぎるとか斬新すぎるとかで、なかなか役員連中がうんといわなくって難儀したが、ついに認めさせたんだ!」

 ついさっきというところから、北峰は社から直でここにきたようだ。スーツ姿なのは役員の前でプレゼンしたあとなのだと、容易にわかる。

 ノートPCの前で、急転した現実に啞然とする真紘のもとに北峰は歩み寄り、意気揚々と苦労話を披露した。そのはしゃぐ姿、男子小学生がスポーツ大会で優勝したかのよう。この北峰の底抜けの浮かれ具合、通った案件は彼の中で一番やりたかったものに違いない。
 マダム山形から北峰はたくさん案件を抱えているときいていた。誰だって自分が受け持った案件が消えることなく、実施となるのは嬉しいこと。それも一番力を入れていた案件であれば、なおさらに。

 (えっと……)
 (なぜ、この人がここにくるのかは別にして……)

 仕事達成の喜びを分かち合うには、他にも別の人がいるだろうに。
 例えば、一緒に頑張ったプロジェクトメンバーとか、バックで支えてくれた家族とか、もっといえば仕事優先でほったらかしにされていたかもしれないカノジョとかが。
< 88 / 155 >

この作品をシェア

pagetop