90日のシンデレラ
 では一体、なぜ真紘なのか?

 ここが社から一番近い物件で、かつそのプロジェクトと真紘が完全に無関係であれば、余計なツッコミなどされず単純に自慢できるから?
 それだけなら動機が弱いような気もするが……北峰の行動の『なぞ』を挙げればきりがない。

 「お、飲んでた? いいねぇ~、俺も」

 真紘の缶チューハイをみて、北峰は冷蔵庫からフルーツジュースの瓶を出してきた。そして、これまた勝手にグラスを取り注ぐ。
 グラスを手に真紘の前にどさりと座われば、ごくごくと美味しそうに飲みだした。本命プレゼンのあとで、緊張で乾いた喉を潤すかのように。

 (いろいろ訊きたいこともあるけれど……)
 (まずは、お祝いをいうのが妥当よね、この場合)
 (私は……一応、この人の部下になるわけだし)

 「お、おめでとうございます。そ、それは、良かったです」

 おずおずと真紘がそういえば、ぱあぁっと北峰の顔が輝いた。
 花咲くような笑顔というのは、こういう顔のことなのだろうか?
 北峰は男性だけど、今みせる顔はそんな表現がぴったりだ。イケメン上司の嬉し顔を目の当たりにして、そう真紘は思う。

 「シーナちゃん、ありがと! あーもー、仕事がうまくいって、とっても気持ちいい。しかも明日は休みだし、もーサイコー!」

 素直に北峰は、真紘の祝辞に喜んだ。真紘の前で、仰々しくジュースを飲み干していく。
 じっくりと、ひとりでジュースの祝杯を挙げたのち、北峰は手のひらに収めた金属の塊を真紘にみせた。
 
 (それ、なに?)

 不思議なものをみせられて、また真紘は目が丸くなる。
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