90日のシンデレラ
「え?」
  赤い石に透明感はない。濃い赤色一色の丸い石、艶は控えめだ。これは赤珊瑚だろうか?

「お詫び。別の日に用意してあったんだけど、もう今、渡す」
と、瑠樹の手が片方を取り上げた。
「じっと、してて」

 真紘は少し首を傾げて静止する。
 慣れた手つきで、瑠樹は真紘にピアスをつけてやった。
 不意打ちのプレゼントに、真紘は目が丸くなる。
 別の日とは、おそらく真紘の誕生日のことに違いない。真紘の誕生日は、再来週なのだ。

 誕生日プレゼントを用意してくれていた。それ自体は、嬉しい。
 だがもしそうだとして、これは誕生日プレゼントが休日過ごせないことへの詫びの品に転用されたことになる。プレゼントをもらうのは嬉しいが、ちょっと複雑な気分でもある。
 残りのピアスも、バックハグしたまま瑠樹はつけてしまう。
 朝から赤のピアスで飾られて真紘が出来上がった。

「こっち向いて、真紘」
 バックハグが外されて、体の向きを変えられる。慌てて真紘は、泡だらけの手をキッチンクロスで包んだ。
「うん、かわいい。思ったとおり、よく似合う」
 ビジネスエリートに真顔でそう告げられて、真紘は照れてしまう。
 戸惑う真紘に瑠樹は、チュッとライトキスを唇に落とした。
「じゃあ、いってくるわ」
 休日の甘い恋人は平日の厳しい顔になって、真紘の借り上げ賃貸をあとにしたのだった。
 
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