90日のシンデレラ
 首都高ドライブは、まだまだはじまったばかり。
 行き先がどこなのか知らないが、なんとなく真紘はゴールはずっと先のような気がしてならない。
 先の隠れたカーブに入るたびに、合流車線で左右の車から幅寄せされるたびに、真紘の心臓がキュッと縮こまる。無事に隣を通り過ぎたなら、今度は逆にほっと胸をなでおろす。とにかく、心臓が忙しい。

 早くこのスリル満点すぎるドライブが終わってほしい――でも不思議なことに、人間は環境に慣れる動物らしい。何度もカーブを曲がるうちに、たくさんの車を追い越すうちに、真紘はだんだんそこまで怖くなくなってきた。

 (そうよ、よく考えれば、運転に自信のない人が高速を走るわけないわよね)
 (いつもじゃないけど、北峰さんがミッション車に乗っているのは間違いないんだし)
 (運転だって滑らかだし。揺れはオートマ車とほとんど変わりないと思う)

 何度も坂道を上ったり下ったりして、ひときわ長い高架下トンネルに入った。トンネルを照らすねっとりとしたオレンジ色の車道ランプの光が、どこか息苦しい。
 継ぎ接ぎだらけの首都高速道路は、新しくてピカピカのところがあれば古くて薄汚れたところもある。いま通っている付近が、そんな古いところだ。
 このまま冥府までいきそうな感じと、ちょっと悲愴な感想を真紘は持った。

 その間も、北峰の運転は変わらない。ちらりとみた彼の横顔も、首都高に乗る前と変わりのない。ハンサムスマイルのままハンドルを握っているし、左手と左足はリズミカルにシフトチェンジをしている。

 重苦しい雰囲気のトンネルは、永遠に続いているように思われた。
 このトンネルを抜けても時刻は夜中だから、出口には夜闇しかないだろう。光があっても人工的なオレンジ色の道路灯だけのはず。東京見物でなく、これじゃあ地下道見学だよと真紘が思ったときであった。
 不意に、世界が開けた。トンネルを抜けたのだ。
 目の前に広がったその光景に、真紘は目が釘付けになった。

 「あ……」

 そこはクリアな光に満ちていた。オレンジ色ではないシャンパン色のオベリスクの大群が、高速道路の車道の向こう側に広がっていた。
< 99 / 133 >

この作品をシェア

pagetop