余裕な後輩くんは,一途に先輩を想う。
コツンと,特に意識することもなく首がかしげられる。

佐藤くんは



「なんだろー」



と過ぎていった長身の彼みたいに適当な答えを寄越した。



「そう言えば。朝起きてびっくりしたよ」



話題が,変わる。



「え,あ」

「寝ぼけ頭でなんか先輩の匂いすんなぁと思ったら,がちで知らん部屋。分かる?」



着いていけない私に,彼はそれはもうあざとく目を合わせて首をかしげた。

私が何となくしたのとは格が違う。



「ご,ごめん…」



そうだよね,ちゃんと直ぐに人から説明貰いたいよね。

なのに私ってば…

思い終わる前に,彼がまた言葉を紡いだ。



「めっちゃびびったけど,新鮮でおもろかった。今度知り合いにどっきり仕掛けてやろうと思うくらいには。身柄預かってくれてありがと」

「まぁ,それくらいは」



いいながら(よぎ)る。

こいつ,さては覚えてない?

確信的な何かを勝手に抱いて,私は半目になった。

また,意味のない時間が流れる。

ほっとれもんを両手に抱えて,ほっと息を吐いた時。



「せんぱーい」



と何か考えるようなゆるい声で,佐藤くんが私を呼んだ。

何気なく視線だけで反応した私に,その気配を察したのか,やけに真正面を見つめたまま彼は口を開く。
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