余裕な後輩くんは,一途に先輩を想う。
「何なんだよ。顔赤いし,絶妙ににやついててキモいんですけど」
他に言い方無かったのか,と俺は呆れる。
飾り気のない喋り方は嫌いじゃないけど。
歯に衣着せないそれは,たまに見ていてヒヤリとする。
本人曰く,偉い人間には少し遠慮するときもあるのだとか。
「変なことしてないだろーなー。桜ちゃんは会社の華なんだぞ」
優しくて可愛くて,結局はいつも有能な先輩。
その存在は,会社全体で大事に大事にされている。
先輩は知らないだろう。
真依ちゃんと呼ぶには気が引けると,名字をもじって桜ちゃんなんて裏で親しみを込めて呼ばれてること。
俺は有象無象になりたいわけではないから,1度も使ったことはない。
先輩,俺。
脈アリって,思ってもい?
「あーかわい。すき」
「え,むり」
「お前じゃねぇよ」
「あーそうだった」
もう,時間だ。
のっそり立ち上がって,同期の友人と並ぶ。
先輩,どんな顔するかな。
『真依先輩』
あんな顔,他のやつには見せられない。
だから,そう呼ぶのはもうずっと後にしよう。
俺はもうすっかり良くなった機嫌をもとに戻すなんて出来なかった。
こぼすように笑えば,また隣の"一ノ宮"が怪訝そうに顔を歪める。
俺はそれに,笑顔で返してやった。