余裕な後輩くんは,一途に先輩を想う。
軽く手を振って,返事の代わりにする。

と,目の前で彼女が躓いた。

こけはしなかったみたいだけだ,やっぱり心配だ。

元気がよくてそそっかしい。

くすりと溢す私の横で,佐藤くんも笑った。



「えりちゃん,一応俺より年上なのに,たまに年下みたいに見える」

「そ,だね」



えりちゃん。

その呼び方に,私の中でふわりと何かが浮かんだ。

何……?

気付いた途端,ずっしりと重みを増したそれに,私は胸を押さえた。

私,どうしちゃったんだろう。

何も珍しいことはない。

社内では,平然と使われている呼び名。

それは素直に,羨ましいな,とも思っていた。

未だに呼ばれる機会すら少ない私は,そんな風に言われたことはない。

木村さんの対人スキルは私よりもずっと上で,来客対応での評判もよいと聞いた。

社内評価も,同じなのだろう。

その中でも,ただ。

佐藤くんがそれを使っているのは,少し,意外だと私は思った。

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