余裕な後輩くんは,一途に先輩を想う。
「一ノ宮,くん」



一ノ宮 健(いちのみや   たける)

この間もすれ違ったばかりの,佐藤くんの同期。

いつからいたの。



「…一ノ宮くんは,えりちゃんって呼ばないんだね。珍しい」



ついポロリと,本音が出た。

一ノ宮くんの表情に,佐藤くんのような,こないだ声をかけて来た時のような掴みにくい軽さはない。

敬語も,少し似合わなかった。



「呼んでいいのか,困ってるんですよ。あいつも,同じだと思いますけど」

「あいつって? 何の話?」

「呼び方,気にしてましたよね」



私が首をかしげると,一ノ宮くんは呆れたような顔で私を見る。

それは少なくとも,目上の人間にするような目ではない。



「俺もよく,オブラートがどうの,態度がどうのだの言われますけど………桜…島さんは桜島さんで,鈍感とか言われてそうですね」
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