余裕な後輩くんは,一途に先輩を想う。
「なんか今の呼び方,変に照れてるせいで人妻みたいですね~。私は貰えないけど,男に産まれてたらプロポーズしてましたよ本当に」



木村さんはにっこにこ。

佐藤くんなんて気にもとめていない様だった。

ぎゅっと両手で握られた私の片手。

私も首を傾げて同じ様に返しながら,くすくすと笑った。

その平和な空間の隣で,掌を手刀の様にピンと伸ばした佐藤くんが迷うように立つ。

ふと視線をそらした木村さん。

何かを見つけて,嬉しそうに私を見た。



「一ノ宮さん,何か用でもあるんでしょうか? こっち見て,まだ残ってます! ご飯誘いたいので,行ってきますね」




ポソっと私だけに聞こえるように囁いて,木村さんは小走りをする。

一ノ宮くんは,自分に向かってくる木村さんに驚いた様だった。

少し言葉を交わして,木村さんがおかしそうに笑い,2人で部屋を出ていく。

一ノ宮くんも,どこか表情が柔らかく,嬉しそうに見えた。

これ……もしかして,本当にもしかする?

私はどこか甘酸っぱくて,温かい気持ちになった。
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