余裕な後輩くんは,一途に先輩を想う。
「何笑ってんの?」



ひょこっと,背の高い佐藤くんが私の顔を覗き込む。

私は両手で距離を取りながら,顔を背けた。

2人がいい感じかも……なんて,勝手に話すわけにもいかない。



「一ノ宮くんが…………いいなって思ってたの」



若い2人の恋愛は,私にはとてもきらきらして見える。

深く明確に,佐藤くんに教えてあげることは出来ないけど。



「……は? 一ノ宮? まってどういう意味?」



覗き込んだ体勢のまま,彼は私の狭い肩を,がっしりと掴んだ。

じりじりと私の反応を窺う様に,何の遠慮も無く近寄られる。

綺麗な顔がドアップだった。



「あの,ぇっと」

「何で,そこで赤くなる? 先輩,答えて」



近いからだよ!

佐藤くんこそちょっと離れて。

自分の顔面が凶器だって,分かってるの?

それとも,その距離が普通,だったり……



「ちょっと,来て」



焦れた佐藤くんは,私の腕をぐいと引いて,どこかへ足先を向けた。

1秒遅れて,私がハッとする。

どこに連れて行かれても,もう話せることなんてないのに!

ついでに話すことも。

深い意味なんてちっとも無いのに……
< 60 / 78 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop