余裕な後輩くんは,一途に先輩を想う。
……あ,れ?

返答がないな。

確かに一方的で,返しづらいかったかもしれないけど。

それはそれで,きつい。

脈絡無かったかな。

それともちゃんと伝わらなかった? 足りない?

気持ちだけが何とかしないとと急いで行く。



「あっあの……!」



砕けるのが先!

有名な慣用句の表現を,少し過激にした脳が全体に指令を送った。

今やらなくちゃ……!

勢いよく頭を上げると,丁度佐藤くんの両腕が私に伸びてきている所だった。

思わず目をぎゅっと瞑る。

胸の辺りで,私の両手がぴくりと震えた。

彼が怖かったんじゃない。

でも,何が起こるのか分からなくて,身がすくんだのは事実だ。

思いの外優しく,だけど確かに佐藤くんが私を抱き締める。

視界はやっぱり塞がれて,鼻先が肩に当たった。

う,わ……

そしてここまで来て初めて,私はどうしたって香る彼の匂いに赤面した。
< 66 / 78 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop