余裕な後輩くんは,一途に先輩を想う。
そ·の·後……『2組の恋人』
仕事が終わって,定時になる。
人が少し,また少しとさっさと居なくなる中で,私も腰を上げた。
「ごめん,真依。時間かっちゃった」
うん。
そう笑いかけようとした所で,誰かが耳ざとく声を上げる。
私はあ……と動きを止めた。
目の前の佐藤くんはにこにこと機嫌よさげで,私は『わざとだ……』と直感する。
「えぇ?! 桜ちゃんもしかして……」
「お疲れ様です! お先に失礼します……! 出雲くん,行くよ」
一緒に帰るんでしょ?
私だってもう呼んでいいはずだと仕返ししながら,私は興奮に沸き上がる仕事場を脱出した。
1拍動きのカクついた出雲くんも,後から追ってくる。
あれ……?
今桜ちゃんって呼ばれた? 気のせい?
思考の散る私に,出雲くんは声をかけた。
「もっかい言って貰ってもいい?」
「何が」
「出雲。呼んで」
「出雲くん」
「もう一回」
「出雲くん」
「もう一回」
これから何回だって呼んであげるのに,彼はまだねだる。
最後だよ,そう心で念を送りながら
「出雲くん」
ともう一度呼んだ。
出雲くんが機嫌よく笑って,私は可愛いと見惚れる。