そのままの君が好きだよ
「……えっ? 殿下や陛下から直接お聞きになったわけでは無いのですか?」


 わたくしは驚きに目を見開く。学園での噂の広まりようを見るに、陛下やサムエレ殿下は当然、ジャンルカ殿下から直接、婚約破棄について話を聞いていると思っていたのだ。


「ああ。とはいえ、ロサリア嬢が聖女として目覚めたことは聞いていた。兄上が婚約破棄をするなら、彼女が理由だろうと。
しかし、もしかしたら父上はまだ――――」


 そう言ってサムエレ殿下は口を噤む。それから、わたくしのことを見て、ふぅとため息を吐いた。


「なんにせよ、悪いのは兄上だ。君は自分を責める必要はない。今は楽しいことだけ考えて、兄上のことは忘れて欲しい。
ほら……あっちにも色々とお店がある。一緒に行ってみよう?」


 サムエレ殿下はニコリと微笑んで、わたくしの手を引く。温かな笑みだった。目尻に溜まった涙がつと零れ落ちる。


「はい」


 頷きつつ、わたくしはサムエレ殿下と並んで街を歩いた。
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