そのままの君が好きだよ
 とはいえ、サムエレ殿下がわたくしとの関係を、どこまで真剣に考えていらっしゃるかも分からない。

 何と言ってもわたくしは、彼のお兄様であるジャンルカ殿下の元婚約者だ。そんなわたくしの手を取ることを、世間がどう思うかは分からない。だから、殿下とはこのままズルズルと付かず離れず……そんな関係に終始する可能性だって無くはないのだけど。


(それでも構わないわ)


 夜風がそっと頬を撫でる。少し肌寒いぐらいなのに、心がポカポカと温かい。
 サムエレ殿下の気持ちがどうあれ、わたくし自身の気持ちはもう誤魔化しようがない。他の誰にも抱いたことのない、特別な想い。それが、わたくしの中に確かに芽生え、すくすくと育っているのが分かった。


(殿下にお伝えしなければ)


 そう思うと、鼓動がトクントクンと速くなる。


「ディアーナ」


 けれどその時、わたくしの心は一気にどん底へと引き摺り降ろされた。ドクンドクンと嫌な音を立てて心臓が鳴る。サムエレ殿下によく似た、わたくしを呼ぶ声。怖くて振り返ることができずにいると、大きな手のひらがぐいとわたくしを引っ張った。


「ディアーナ」


 責めるような瞳が、わたくしを冷たく見下ろす。


「殿下」


 わたくしの元婚約者――――ジャンルカ殿下がそこにいた。 
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